第35期天元戦 特集
対談:大矢浩一九段×上村陽生九段

 張栩天元(29)=十段・王座・碁聖=に山下敬吾棋聖(31)が挑戦する第35期天元戦5番勝負が12日、長野県松本市で開幕する。前期、3連勝で天元位を奪取した張天元と、5期ぶりの復位を目指す山下棋聖の強豪同士のハイレベルな激戦が期待される。今期から持ち時間が4時間から3時間に変わり、戦いにどう影響するのか。上村陽生、大矢浩一両九段に勝負の行方を占ってもらった。
対談する上村陽生九段(右)と大矢浩一九段
対談する上村陽生九段(右)と大矢浩一九段

殴り合いの戦いに
互いに逆転力あり
 強い山下棋聖
大矢荒れる天元戦と言われていたが、最近は荒れていない。
上村挑戦者は強い人が出ています。
大矢挑戦者決定戦の山下敬吾×河野臨戦は、山下棋聖が第31期から3期連続で負けた河野九段に勝って一矢報いた。
上村山下棋聖は天元戦に強い。挑戦者になる力はすさまじい。1敗もできないトーナメントはリーグ戦以上に厳しい。
大矢河野九段は研究して臨んだが、序盤の思いがけない一手で動揺しました。
上村最後は山下棋聖らしく、大石を殺して勝った。
上村張栩天元は29歳ですが、山下棋聖は31歳。以前よりタイトル戦がきつくなってきているはず。
大矢張天元は今期17連勝しています。名人戦で失冠したばかりですが、常に最高ランクでの戦いでこの成績は素晴らしい。
上村たしかにすごい成績ですが、少し調子が落ちた気も。名人戦の負担が大きかったか、他の棋戦を見ても内容が良くない。
大矢山下棋聖も連勝している。この時期になると調子がいい。
上村内容的にも悪くない。お互いに逆転力がありますね。張天元はスピード感があるし、形勢判断も良くすきがない。模様を張る山下棋聖とは正反対。
大矢山下棋聖の棋風はめずらしい。分厚い碁で常に戦う。
上村戦い続けていく碁。勉強してもまねできない棋風です。
大矢ですが、ヨセが苦手という。持ち時間が3時間になったことが内容に影響してくるでしょう。
上村読む時間がほしいでしょう。張天元はヨセも研究していて、意識的に早く打っている。短い持ち時間でも集中している。
 時間配分が鍵
大矢時間がなくなってからの精密さが違う。山下棋聖は時間配分が鍵になる。
上村山下棋聖は1人で研究するタイプ。
大矢棋譜を並べる昔ながらの方法で研究していて流行に流されない。対戦成績を見ると低段のころは山下棋聖、高段になると張天元が勝っています。
上村張天元はうまく戦って、真正面から山下棋聖のパンチを受けていない。天元戦でも足早に展開して、どこで打ち合うか。
大矢張天元も戦いは得意です。
上村どこかで刺激的な手を打つと相手も戦わざるを得ない。張天元は名人戦の影響があるでしょうか。
大矢名人戦は2日制、天元戦は1日制ですから、まったく違う碁だという人もいる。しかし影響がないわけはないでしょう。
上村山下棋聖ももうひとつタイトルがほしい。2冠だとトップ棋士のイメージが強くなる。井山裕太新名人など若手の追い上げもあり、タイトルが一つでは不安です。
大矢4冠の張天元は疲れもある。
上村金属疲労のような疲れが、いつ出てもおかしくない。タイトルを持ち続けるつらさがある。調子が悪いから今回はやめるとは言えない。
大矢名人戦で負けたのはショックでしょうが、切り替えは早い。山下棋聖との対戦成績は良い材料。最近の10局でも良い。
上村どういう立ち上がりになるか。第1局の内容に注目です。
 四天王の核に
上村両者にとってすごく大事なタイトル戦。張天元でさえ、勝って当たり前でなくなった。昔のように10年も20年も第一線に立ってタイトルを持ち続ける時代ではない。若手から井山名人が出てきて、張天元、山下棋聖ら四天王も危機感があるはず。山下棋聖にはここで張天元に勝ち、四天王の核になれるか。
大矢張天元は王座戦と並行で10番勝負。山下棋聖と山田規三生九段を相手に戦うわけですから正念場です。
上村最先端の壮絶な碁になるでしょう。
大矢殴り合いの激しい戦いになるのは必至。見るほうにとって、すごく楽しい。
上村今までは張天元が勝ちをさらっていった。山下棋聖は今、がんばらないと置いていかれる。状態がいいので、四天王の一番手に名乗りを上げるチャンス。
大矢対戦成績(張天元の28勝に対し、山下棋聖は17勝)がこれだけ片寄り、3時間の碁は張天元が得意で山下棋聖が苦手と考えると、3―1か3―0で張天元が勝つと予想します。
上村ここ1カ月の内容から3―1で山下棋聖が勝つ気がします。この棋戦に懸けるものがある。タイトル戦は僕ら棋士の夢の舞台。両対局者のうしろには440人のプロ棋士の思いが込められています。素晴らしい戦いを期待します。