デスマスク
(岡田温司著  岩波新書 840円)
<略歴>   おかだ・あつし 1954年、広島県出身。京都大大学院人間・環境学研究科教授。専攻は西洋美術史・思想史。訳書にロンギ著「芸術論叢(ろんそう)」など。
本:デスマスク死顔に秘められた物語

 「死に顔」、「コピーされた顔」等と呼ばれる都市伝説がある。

 内容はこうだ、“ある学校で夜勤の先生がコピー機を作動させた。その途端、持病で倒れこみ、顔を硝子(ガラス)面に押し付けて亡くなってしまった。翌朝になって生徒が学校に来ると、死んだ先生の死顔のコピーが部屋いっぱいに散らばっていたという”

 「デスマスク」という言葉を聞いて最初に連想したのは、何故かこの都市伝説だった。

 私は怪談を収集しているので、色んな恐ろしい話を聞くけれど、それでも、この都市伝説はひときわ怖い話として印象に残っている。

 死の瞬間の顔を見てしまう事が、とても恐ろしいと思っていたからだ。

 この本を手に取った時、私は、これはきっと怖い怪奇的な内容の本だろうと勝手に思い込んでいたけれど、本書の内容は異なっていた。

 古代ローマのイマギニス(先祖の肖像)の紹介から始まり、ナポリ近郊の墓場で発見された硝子の目をはめ込んだ幼子のデスマスクについて語られる。

 イマギニスは、一族の者がこの世を去った時に残された子孫に栄光と歴史を教えてくれ、幼子のデスマスクは我(わ)が子の姿を残したい両親の思いから作成されたらしい。

 デスマスクには、宗教的な側面もあれば記録的な役割もあることを本書で知った。王家の人間は死後、かつて二つの体が必要だったという話から、蝋人形(ろうにんぎょう)館で知られるマダム・タッソーのデスマスク作りの話等。

 そして「名もなきセーヌの娘」の話は特に印象的だった。真偽は不明だが、セーヌ川に身投げした身元不明の娘から取られたという蠱惑(こわく)的な微笑(ほほえ)みを浮かべたデスマスクで、当時、数多くの文学者や芸術家が、この娘に魅入られたそうだ。

 死顔を恐れていた私が、本書を読むうちに死の表情に秘められた物語に強く引き込まれてしまった。

評・田辺青蛙(怪談・ホラー作家)

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