新刊と文庫
2012.01.29
<単行本>
■地下の鳩 西加奈子著
 大阪・ミナミの繁華街で客引きをする40歳の吉田は、チーママのみさをと出会う。若ぶる癖の抜けない男と、望まれる役を演じて生きてきたせいで自分の本当の気持ちを知らない女は、ただ一緒に食事をするだけの奇妙な関係を続けながら、ひかれあっていく―。淡々とした筆致で描かれた、情けなくも必死に生きる人々の姿から、あたたかなユーモアが立ち上がってくる。(文芸春秋 1260円)

■死体泥棒 唐辺葉介著
 大学にも行かず、おざなりにバイトをこなして無為に日々を過ごす“僕”は、心の支えであった恋人を亡くした。そしてある暗い夜、恋人の死体を葬儀会場から盗み出す。中古の業務用冷凍庫で腐敗を防ぎ、自分の目的すらよくわからないままに、彼は死体との奇妙な同棲(どうせい)をはじめる―。先の見えない鬱屈(うっくつ)した青年の奇行を、シニカルな文章で鮮やかに描き出す。(星海社 1260円)

■ジェノサイドの丘 フィリップ・ゴーレイヴィッチ著
 十数年前、アフリカの小国ルワンダで、80万人にもおよぶ大虐殺が行われた。国民の10分の1が殺されたこの悲劇を、加害者・被害者双方の証言を元に記録した詳細なルポルタージュ。民族紛争に端を発するおぞましい大量殺人の事実が、容赦なくあばかれる。罪は虐殺を指揮した者だけでなく、当時その事実を知ろうともしなかった私たちにもある。柳下毅一郎訳。(WAVE出版 2415円)

■ゴジラ音楽と緊急地震速報 伊福部達監修、筒井信介著
 緊急地震速報のチャイム音は、「ゴジラ」の作曲者・伊福部昭のおいが作ったものだった。北大で「福祉工学」を切り開いた彼は、聴覚・視覚障害を工学的に支援するノウハウを生かし、昭が研究していたアイヌ音楽の再生作業経験を加えて音を作成。映画音楽の応用や音響学など、たった3秒に込められた技術とドラマに驚く。(ヤマハミュージックメディア 1470円)

■世界は広くてせまくて、やっぱり広い 笑福亭鶴笑著
 人形や自分の体全体を使ったパフォーマンス「パペット落語」をあみ出し、世界中の路上やステージで活動してきた落語家の半生記。豪州で経験を積み、ハンガリーの大会では大好評。しかし、勇んで乗り込んだ英国では…。家族と共に海外に居住し、芸で生き抜くために幾度も試練に立ち向うチャレンジ精神には心打たれる。(ヨシモトブックス 1400円)

■それぞれの戊辰戦争 佐藤竜一著本:それぞれの戊辰戦争
 今から140余年前の戊辰戦争をペリー来航から説き起こし、五稜郭の戦いまでを追ったノンフィクション。東日本の各藩の戦いぶりに力点を置き、戦争後のエピソードも紹介している。悲惨だったのは会津藩(福島県)で、多くの藩士らは敗戦後、斗南藩(青森県)や北海道へ離散した。著者はその悲劇と、福島第1原発事故で全国に避難した福島県民に思いを重ねる。戊辰戦争で敗れてもなお、誇り高く生きる人々の姿が胸を打つ。(現代書館 1680円)
<新書>
■子供の名前が危ない 牧野恭仁雄著
 なぜ、他人に読めない奇抜な名前が増えているのか。命名研究家の著者は、その背景には親の無力感、欠乏感があると分析。虐待など子供にまつわる犯罪も例に挙げ、子供が被害者になっていると主張する。名づけのアドバイスも。(ベスト 720円)

■マンガで読むマックスウェルの悪魔 月路よなぎ・画、銀杏社・構成
 熱いお茶が冷める理由から宇宙の終焉(しゅうえん)まで、エントロピーが鍵を握る。熱力学について解説した都筑卓司の同名書をマンガ化。理数の知識がなくても理解しやすい。(講談社ブルーバックス 903円)

■歌謡曲から「昭和」を読む なかにし礼著
 1930年代や70年代の黄金時代、軍歌、戦後歌謡、レコード会社の専属制、フリーの作家と音楽出版社の登場、グループ・サウンズ…。数々のヒット作を持つ作詩家が、流行歌である歌謡曲が昭和の歴史と密接に結びつき、その時代をどう映してきたかを伝える。(NHK出版 735円)
<文庫>
■マジメとフマジメの間 岡本喜八著
 数多くの名作映画を残した監督によるエッセー集。周囲の忠告に反して戦争を喜劇的に描いた著者の、監督デビューから晩年までの思考の記録。歯切れ良い独特の文章の向こうから、1本筋の通った人生観が見えてくる。(ちくま 1260円)

■ペット・サウンズ ジム・フジーリ著
 ロック史上屈指の名盤とされるビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」。楽曲を作り上げた天才ブライアン・ウィルソンの内面にまで踏み込んだ、意欲的な音楽ノンフィクション。長めの訳者あとがきも読み応えがある。村上春樹訳。(新潮 515円)

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