くらしの扉

メモ
厚生年金の脱退と滞納



2004/02/01(日)朝刊
厚生年金脱退の中小企業増加
 
「保険料払えぬ最後の自衛策」
長引く不況…後絶たず
制度崩壊懸念 手続き厳しく
 道社保事務局
 
 厚生年金を脱退する会社が増えている。経営破たん、休業など理由はさまざまだが、加入義務があるのに、保険料負担に耐えかねて逃げ出す中小・零細企業も少なくない。長引く不況下、最後の生き残り策なのか、それとも年金制度崩壊の兆しなのか。中小企業経営者の本音を聞いた。(斉藤紳一)
 
以前は比較的簡単だった脱退届も、今は受理が厳格化された
(表)全国の厚生年金全喪届(脱退)件数と保険料滞納額
 苫小牧市内で設備関連の会社を経営する六十代のAさんは四年前、社会保険事務所に厚生年金など社会保険の脱退届(全喪届)を出した。

 脱退理由の欄には「不況により受注高が減り、退職者が続出して、役員を含め社会保険の適用を受ける社員がいなくなりました」と記入し、簡単なやりとりの後、届け出は受理された。Aさんと従業員十二人は国民年金に移った。だが、会社は脱退以前と同じ実態で業務を続けている。

 厚生年金は事業主や従業員の意思に関係なく、法人と従業員五人以上の事業所の加入が義務付けられており、Aさんの会社も本来、適用を受けねばならない。制度を支える根幹でもある。

 加入義務から逃げたAさんは「脱退しなかったら、資金繰りできず、倒産したかもしれない」と話す。約二十五年前に会社を興した時、Aさんは「会社の信用、従業員のためにも払うべきものは払う」と決め、保険料の滞納は一度もなかった。

 だが、八年ほど前から業績が悪化し、赤字が続いた。脱退後の二○○二年度収支は売上高一億六百万円に対し、利益は四十五万円。もし、年金保険料三百三十万円(会社負担分)、健康保険料二百二十万円(同)を納付していれば、ほぼ保険料分五百万円の赤字になる計算だ。経費削減ももう限界。脱退時は二年で再加入するつもりだったAさんだが、あと数年は難しいという。

 年金保険料(収入の13・58%、労使折半)は、税金と異なり、業績が悪くても減免されない。Aさんは「不況の中で税金以上に経営を圧迫している。脱退は、われわれ零細企業の最後の自衛策」と言い切った。

 こんな例もある。数年前、ある建設関連会社が「給料10%カット」に踏み切った。保険料の滞納に迫られていた社長の姿を見かね、従業員約五十人の総意で保険料の会社負担分にほぼ相当する額の賃下げを申し出たのだ。

 担当した社会保険労務士は「いったん滞納すれば納付が難しくなるだけでなく、金融機関の信用も失う。厚生年金、健保脱退が不安なら、賃金を下げて会社の保険料負担を軽くするという窮余の策だった」と話す。

 このほか、役員を非常勤にしたり、正社員を別会社に移し、勤務時間の短いパート扱いにするなど「保険料倒産よりまし」と、“偽装”ともいえる軽減策をとる中小・零細企業も少なくないという。

 全国の国民年金保険料の納付率が63%(○二年度)に下がったのに対し、天引きで集める厚生年金保険料では99%を超えている。北海道社会保険事務局は「大部分の企業が苦しい中、保険料を納めている。負担逃れは年金制度の土台を揺るがしかねない」としており、昨年から脱退届には事業所解散の登記簿など脱退理由を証明する書類添付を義務付けた。

 年金保険料は、今年十月から段階的な引き上げが始まり、加入する個人、企業の負担感は一層強まる。近い将来、健康保険料引き上げの動きもあり、Aさんは「切羽詰まったわれわれの声が国に届いているのだろうか」とため息をついている。
 
■ポイント制 厚労省が導入検討
  納付実績数値化 年金額一目で 若い世代の不信解消目指す
(表)ポイント制のイメージ
 厚生労働省が年金改革の一環として導入を検討しているのが、保険料の納付実績を数値化して加入する人(被保険者)に通知する「ポイント制」だ。将来受け取る年金額を知ることで老後の生活設計に役立ててもらうほか、詳しい年金情報の提供で若い世代の年金不信を払しょくする狙いがある。

 同省によると、国民年金・老齢基礎年金は月額一万三千三百円の保険料を一年間納付すると1ポイントとし、最大で四十年間納め続けて40ポイント獲得すると、満額の年間八十万四千二百円(二○○三年度は七十九万七千円)を六十五歳から受け取れる。

 納付期間が三十年なら30ポイントとなり、受給額は満額の四分の三の同六十万三千百五十円になるわけだ。

 サラリーマンなどが入る厚生年金の場合は、報酬比例分のポイントが上乗せされる。この場合、被保険者全体の平均的な給料で一年間保険料を納めれば1ポイント(報酬比例年金ポイント)と計算。四十年間ずっと平均的な給料で働くと40ポイント獲得し、標準的な年金額の年間百二十三万円(○二年度)を基礎年金に上乗せして受け取れる。

 平均以上の給料で保険料を納付すると40ポイントを上回り、平均以下だと受給額は少なくなる設定だ。

 厚労省は「自分の保険料納付の実績と、将来の年金額が着実に増加することが実感できる制度」として、本人あてに最低年一回、直前一年の実績や累計ポイント、年金見込み額を通知する方向で準備作業に入る。ただ、実施は「○八年度ごろ」(同省)とまだ先になりそうだ。

北海道新聞
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