「SOSネットワークからのお知らせです。お名前は大森国男さん(仮名)。六十八歳。男性です。釧路市○○町の自宅から所在不明になりました…」。一月二十七日午後三時近く、FMくしろが放送した。今年初の同ネット稼働だった。
その少し前、釧路市内でタクシーを走らせていた運転手、下見広志さん(60)の携帯電話が鳴った。大森さんの通院のため、毎週のようにタクシーを使ってくれる妻(64)からだった。
「夫が朝からいないんです。今日は乗せてませんか」との問いに、下見さんは「すぐ警察に電話してSOSネットで捜してもらった方がいい」とアドバイスした。
妻から連絡を受けた釧路署は、管内の交番に手配するとともに捜索の協力機関に連絡した。FMくしろは大森さんの年齢や特徴が記されたファクスが入って一分足らずで放送、三十分おきに繰り返し呼びかけた。釧根地区ハイヤー協会も加盟社に手配、七百台近いタクシーが捜索に加わった。
下見さんも心当たりを捜していると、午後四時すぎ、郊外の大型店の従業員から携帯電話に連絡が入った。「この携帯電話の番号を書いた紙を持ったお年寄りがいます」。すぐピンときた。病院の帰途、いつも大森さん夫妻が立ち寄る店だった。
自宅から四キロも離れていたが、連携プレーで無事に保護された。妻だけで六時間以上も捜していたが、SOSネットが動き始めて二時間足らず。警察から連絡を受けたFMくしろも速報した。「みなさんのご協力により解決しました」。
SOSネットワークの浸透ぶりを示す一例だ。たんぽぽの会の高橋みち子副会長は「かつては血まなこになった家族だけで、ひたすら捜すしかありませんでした」と振り返る。 |
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| ●女性の死で |
同会がSOSネットの必要性を警察や保健所に呼びかけるきっかけになった「はいかい死」がある。一九九○年四月、ごみ収集日の朝、ごみ袋を手に自宅を出た女性(79)が行方不明になり、三日後、約三キロ離れた湿原のそばで遺体が発見された。
家族は警察に捜索願を出した当初、痴ほうのことを言い出せず、家出人としての対応にとどまった。発見されるまでに「トイレを借りにきた」など、数カ所で目撃されたことが後から分かり、道に迷っていると訴えることのできない痴ほう老人の姿と周囲の理解不足が浮き彫りになった。
このため、同会が熱心に働きかけ、九四年にSOSネットがスタートした。昨年度までの九年間で二百七十四件稼働し、保護したのは二百六十七件。五人が死亡、二人は行方不明のままだ。
発見者は通行人やタクシー運転手など、家族や警察以外が六割を占める。釧路署も「警察だけでは限界があり、多くの市民の『目』があったからこそ発見につながっている」と話している。 |
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| ●休眠状態も |
SOSネットは釧路を手本に、翌九五年には釧路管内全域で設立されるなど、徐々に広がった。九九年十二月、道内四十二番目の小樽地域SOSネットワークができ、全道を網羅した。
道外でも警察庁が九五年秋に釧路の取り組みを参考とするよう通達を出してから整備が進み、全国の約七割、二千二百市町村に設置済み。二○○二年には全国で約三千九百件稼働した。釧路のように成果を挙げるところの一方で、設置後五年以上も利用がゼロという休眠状態のネットもある。
高齢者痴呆(ほう)介護研究・研修東京センターの永田久美子・主任研究主幹は「全国的にはシステムを作ったものの『PRしない』『市民もあてにしない』『実績が上がらない』という悪循環に陥ったところもあるが、釧路は関係者の頑張りで非常にうまくいっています」と評価している。 |