強い意志で一体感醸成

| メモリーゲームを楽しむ鹿追町立笹川小の教師と児童ら。「カナダ学」は町の教育関係者たちの努力の結晶だ |
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荒れた生徒は教師を囲んでツバを吐き、暴力は女性教師にも及んだ。教師たちは学校のトイレに生徒が捨てた吸い殻を黙々と拾い集めていた。
荒れが深刻だった道央の中学校に生徒指導のベテランと呼ばれた前田和幸校長(58)が赴任したのは六年前。初日の職員会議で「対教師暴力は許さない」ときっぱり語り、着任前の対教師暴力をすぐ警察に通報した。
「校舎内から死角をなくす」ことも徹底した。荒れた学校は職員会議が増えるが、前田校長は逆に会議を大幅に減らし、校舎の隅々にいつも教師がいる状況をつくった。各教室前の廊下に木製ベンチを置き、校長室と職員室のドアも開放し生徒と教師が談話できるよう気を配った。
ある時、荒れた生徒がふらりと校長室を訪れた。わざとドアを閉め、二人きりになると、生徒は無言でポロポロと涙をこぼし始めた。その間、前田校長はソファの隣に座る生徒の肩を抱き続けた。
鹿追高存続へ地域が挑戦
「cooking(クッキング)?」「No」「sleeping(スリーピング)」「OK」
一日、十勝管内鹿追町の町立笹川小学校(伊藤義一校長)。「カナダ学」担当の三部明日香教諭(24)と担任教師、カナダ人外国語指導助手、中学年の児童が、自分の頭上のカードにどんな英単語が書かれているかを当てるメモリーゲームを始めた。周囲のカードを見ながら、答えを探す七人。最初に正解した子供はカードを確認し、満面の笑みを浮かべた。
道立鹿追高と町立七小中学校が連携する「小中高一貫教育」は二○○三年度、文部科学省の研究開発学校の指定を受けて始まった。町の姉妹都市にちなんだカナダ学が柱で、英語と国際理解教育の充実やカリキュラム開発を狙い小、中学校にカナダ学担当教師を配置、教師による乗り入れ授業なども行う。
中でも、入門編の小学校の年間授業時数は、低学年三十四、五時間、中学年五十時間、高学年七十時間に上る。高学年は中学進学を視野に、アルファベットと音の規則性を学び、英語の発音能力を身に付けさせる音声教育法「フォニックス」を取り入れる。
一貫教育は鹿追高存続への危機感が発端だった。町教委主導で計画を進めた当初は教師への負担増が懸念され、協力が得られるかどうか微妙な状況もあったという。関係者は「町教委、学校、地域が協力し合う今の姿は本当に夢のようだ」と打ち明ける。
専門家が、教師側の発音能力向上の必要性を指摘するなど課題もあるが、制度導入前に約40%だった鹿追高への地元進学率は70%前後を維持するまでに上昇。森末彰徳教育長は「鹿追勤務を希望する教師も増えている」と胸を張る。そして何よりも、小、中学生の70%、高校生の60%がカナダ学が「楽しい」とアンケートに回答。授業を終えた笹川小四年の児童も「一番好きな授業はカナダ学。難しいけど、英語を話せるのはやっぱりうれしい」と答えた。
荒れ克服誓い2年で再生
荒れ克服の先頭に立った校長と、新たな挑戦を始めた教育委員会。共通するのは、目的の明確さと、それを貫く意志の強さだ。
「事前に情報を集め、具体策を考え抜いて赴任した」。現在、岩見沢市立岩見沢小の前田校長は、六年前を振り返る。
若いころ、生徒指導でやむを得ず力で押さえ付けた苦い経験もある。教育局から「荒れ対策の切り札」と言われ、赴任が決まった時、「心を傷つける体罰は絶対にしない。同時に対教師暴力も許さない」と決意した。
学校は二年間で劇的に変わり、地域からも驚かれた。
当時、前田校長の下にいた教師の一人は「校長は、教師として持つべき勇気と誇りを、私たちに訴えた。それが教師の一体感を生み大きな力になった」と語る。
前田校長は言う。「生徒たちの頑張りを褒める。でも、決して甘やかす訳ではない。教師と生徒が心を通わせる。学校教育にはそれが大切でしょう」(第3部おわり) |