「海」という言葉を聞いて、みんなは何を想像しますか。どこまでも続く青い海原、白い波と船、クジラや魚。人によってさまざまでしょう。私は海面下、数千メートルの深海を思いうかべます。なぜなら私の仕事が深海にもぐる調査船の操縦だからです。
海の中は三百メートルもぐると、光が届かないまっ暗な世界。でも、ライトをつけるとみんなが見たことがない生き物やふしぎな地形があって、約二十年間で三百七十回潜航した私でも毎回、感動したり、おどろいたりすることばかりです。私と海のかかわりを話しながら、みんなを深海に案内しますが、その前に潜水調査船がどんな船かしょうかいしましょう。
みんなが知っている潜水艦は五百−六百メートルもぐるのが限度と言われています。「しんかい6500」は深海で地震や海底資源、生物などを調査するために、神奈川県横須賀市にある海洋科学技術センター(今年四月から海洋研究開発機構)が造りました。
その名の通り海面下六千五百メートルまでもぐることができ、一九八九年、岩手県三陸沖で深海六千五百二十七メートルに到達しました。世界最深の潜水記録はトリエステ号(アメリカ)が六○年にマリアナ海溝で記録した一万千メートルですが、深海を自由に動き回り、地質や生物を調べる潜水調査船としては、しんかい6500の記録が世界一です。
全長九・五メートル、幅三メートル、重さ二十六トンあり、深海のものすごい水圧にたえる直径二メートルの金属製の球に、パイロット、研究者ら三人が乗り組み、三カ所の窓から海の様子を観察し、手のような機械(マニピュレーター)で、いろいろな機器を海底に置いたり、岩石や生物を採取したりできます。水深一万メートルをこえる深海もありますが、六千五百メートルまでもぐれることで、世界中の海のうち、98%の海底を調べることが可能になりました。
深海に行くのは宇宙飛行よりむずかしい、という人もいます。日本の先端技術を集めた潜水調査船を操縦できるのですから責任の重さとともに、海にあこがれていた少年時代の夢がかなったという喜びを感じています。
私が海をめざしたきっかけはやはり、生まれ故郷の釧路市にあったと思います。 |