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世界のたばこ事情


 今年の税制改正で、七月にたばこ税が値上げされる。今回は児童手当の拡大や国債発行を抑制する見返りの財源となった格好だが、世界に目を向けると、たばこによる健康被害を懸念する世論を背景に増税の傾向が各国で見られる。世界のたばこと財政をめぐる事情を探った。


価格水準 先進国の中では低め

 「一箱五百円ぐらいにしてもいいのではないか」。昨年十二月下旬、与党税制調査会の幹部らに語った小泉純一郎首相の発言は、外国のたばこ価格を念頭にしたものだ。確かに日本のたばこの価格は先進国の中では低水準にある=別表=。

 一箱千円の大台も間近なイギリスをはじめ、欧州が高い。イギリス、フランス、ドイツでは税金が販売価格の八割を超える。米国では州ごとに税率が異なり、嫌煙権に対する意識やたばこ生産地を抱えるなどの事情により倍以上の格差があるが、小売価格は日本と比べると高水準だ。

 一方、税抜き価格が日本とほとんど変わらないロシアの税率は約一割。販売価格も一箱当たり日本より百円以上安い。喫煙率は男性65%、女性25%(ロシアの医療専門紙)でいずれも日本のほぼ倍、女性も若年層に限れば50%を超えるとの見方もある。たばこ広告を規制する法律を策定する動きもある。

 今回のたばこ税値上げに「誠に遺憾」とコメントを発表した日本たばこ産業(JT)は「たばこの値段は各国の経済・財政状況など多様な要素で決まるため、価格を単純に比較するのは意味がない」(IR広報部)としているが、各国の動向に神経をとがらしている。

背景 健康への被害危惧 初の国際条約発効

 こうしたたばこの高価格化の背景には、たばこの害を危惧(きぐ)する国際世論の高まりがある。

 公衆衛生分野では初の国際条約「たばこ規制枠組み条約」が昨年二月、発効したのも一例だ。公共の場所での受動喫煙対策や広告の規制、未成年者対策などを柱としている。

 同条約には「増税によるたばこ消費削減」を批准国に求める規定はない。ただ、シンガポールでは、一箱約三百七十円(一九九九年)から毎年のように増税されて小売価格が約二倍になった結果、二十年前に20%だった喫煙率が14%にまで減少、消費も大幅に縮小した。イギリスでも、この五年間で消費量が約一割減少、結果的に禁煙推進につながっている。

 税収はほとんどの国で一般財源に充てられているが、韓国では販売価格の約18%が「国民健康増進基金」となっているほか、イギリスではブラウン財務相が「今後の増税分は医療関係に使う」と発言するなど、健康目的税化の傾向も見られる。

 ただ、価格の地域間格差はたばこの非合法取引を促し、地下組織の資金源になっているという指摘もある。

歴史 国家財政潤す税制 植民地時代に原型

 たばこで国家財政を潤すシステムは、十六世紀から十七世紀にかけてスペインが植民地を支配した時代に原型が見られる。王室がたばこ貿易を独占して利益を上げ、やがて王室への上納を条件に特定業者に貿易管理を委ねる専売制に移行した。(『タバコの歴史』上野堅実著)

 日本でも江戸時代初期からたばこが普及し始め、自ら栽培に乗り出したり、流通に課税したりする藩もあった。一八七六年(明治九年)には明治政府が初めてたばこに課税、一九○四年(明治三十七年)の「煙草専売局」設置による国営化は、同年に始まった日露戦争の戦費調達も目的とされた。

 それから一世紀。今回のたばこ税値上げには、もともと財務省が消極的だった。「今上げる理由がない」というのが表向きの理由。ただ「たばこ税は国民から値上げの要望が多い唯一の税目。(最も上げやすいので)温存しておきたい」(同省幹部)という本音も。たばこ販売業界を支援者とする政治家からの意向もあったともささやかれる。

 しかしその“虎の子”も、新規国債発行三十兆円枠厳守に加え、児童手当の所得制限緩和で足りなくなった財源の穴埋めに供出されることになった。財務省官僚は、たばこを「財政物資」と呼ぶ。古今東西に共通する本質を、官僚用語にしては珍しく、分かりやすく言い表しているようだ。

メ モ

 たばこによる健康被害の防止を目指した「たばこ規制枠組み条約」は、2003年5月の世界保健機関(WHO)総会で採択され、日本を含め116(昨年12月15日現在)の国と地域が批准している。たばこの主要生産国の中国や米国は、批准していない。

 日本は04年6月の批准前から対策を進め、公的施設での受動喫煙防止の努力規定を設けた健康増進法を03年5月に施行した。この法律を根拠に公共施設や交通機関などの公共空間での禁煙・分煙化が進められているが、強制力はなく、一層の規制強化を求める声もある。