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集団的自衛権


 政府が「保有しているが行使できない」との憲法解釈を踏襲してきた集団的自衛権について、安倍晋三首相が臨時国会の所信表明演説で事例研究を行うと断言したことで議論が再燃している。北朝鮮の核実験を受け、政府が北朝鮮船の貨物検査を行う米艦艇に対し後方支援を検討していることも、議論を加速させている。解釈変更には与党内にも慎重論が根強いことから、首相も当面は解釈変更には踏み込まない見通しだが、「聖域」に手を付けることで、将来の解釈変更、憲法改正に布石を打つ狙いがあるとみられている。(青山修二)


従来の政府見解 保有するが行使せず

 政府が集団的自衛権について「保有しているが行使できない」との憲法解釈を打ち出したのは、鈴木善幸首相時代の一九八一年五月。議員の質問書に対する政府答弁書として閣議決定し、そのまま今も引き継がれている。当時は東西冷戦の最中。米国のレーガン大統領から旧ソ連の原子力潜水艦封じ込めへの協力を求められていたのがきっかけだった。

 その後、橋本龍太郎首相時代に、米軍と自衛隊の共同行動を強化するガイドライン見直しの協議に関連して、国会で「米軍への情報提供が集団的な自衛権にあたるのでは」との議論も。しかし、内閣法制局が九七年に「一般的な情報交換は集団的自衛権の行使には当たらない」との見解を提示し、政府はその後、「集団的自衛権の行使」自体には立ち入らない立場を堅持してきた。

 この政府見解を直接見直す考えを示したのが小泉純一郎前首相。二○○一年の就任時に「あらゆる事態について研究してみる必要がある」と述べ、憲法解釈の変更を示唆。これに対し、公明党が反発し、結局、小泉前首相も○四年二月の参院本会議で「憲法改正を議論することで解決するのが筋だ」と述べ、解釈の変更を断念した。

集団的自衛権をめぐる小泉前首相と安倍首相の発言
  日時・場所 発言内容
小泉純一郎前首相 2001年4月27日
就任記者会見で
米軍が攻撃を受けた場合、日本が何もしないことは本当にできるんだろうか
2004年2月10日
衆院予算委員会で
時代が変わるにつれて、解釈が変わってくるのは悪いことではない
2004年2月27日
参院本会議で
正面から憲法改正を議論することで解決を図るのが筋だろう
安倍晋三首相 2004年4月30日
ワシントンでの講演で
政府の解釈が限界に来ているのは確かだ
2006年9月29日
所信表明演説で
いかなる場合が憲法で禁止される集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即して研究する
2006年10月3日
衆参両院本会議で
これまでの憲法解釈や国会における議論の積み重ねなどを十分尊重しつつ、(中略)個別具体的な例に即し研究していく

論戦再燃 解釈変更狙う首相 「具体事例を研究」

 再び、この論議を総裁選で持ち出したのが、安倍晋三首相だ。首相は就任直後の九月二十九日、衆参両院での所信表明演説で「いかなる場合が、集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即して研究する」と述べ、解釈変更にかじを切るとみられた。

 しかし、公明党が強硬に反対したことで、十月三日の衆参両院の答弁では、「これまでの憲法解釈や国会における議論の積み重ねなどを十分に尊重しつつ」という条件付きで「個別具体的な例に即し研究していく」と述べ、公明党の理解を得た。

 結局、これまで集団的自衛権の範畴(はんちゅう)に入るとみられた事態のなかから、個別的自衛権に入る事態をより分ける「個別的自衛権の拡大」(片山虎之助参院自民党幹事長)を当面は進める見通しだ。

 久間章生防衛庁長官は同十六日の衆院イラク復興支援特別委員会で、自衛艦が補給活動をする米艦船が攻撃を受けた場合、「現実には反撃せざるをえないのではないか」と述べ、後方支援中の反撃は正当防衛で集団的自衛権の行使には該当しないとの考えを示唆。首相の意図する方向で地ならしが始まっている。

今後は 米国の後押し受け 憲法改正も視野に

 ただ、首相は、党幹事長だった○四年四月、米国での講演で「(集団的自衛権に関する)政府の解釈が限界にきているのは確かだ」と発言。首相は「日米安保条約の運用面で双務性を高める」ことを持論としており、「集団的自衛権行使を容認するよう憲法解釈の変更、ゆくゆくは憲法改正まで狙っている」との見方が強い。

 政府は近く、外務省や防衛庁の関係者などで勉強会をつくり、事例研究を始める。事例としては《1》公海上で自衛艦と共同行動をとる米軍が攻撃を受けた場合《2》日本上空を飛び越えて、米国に向かう他国のミサイルをミサイル防衛(MD)システムで迎撃する場合−などが想定されている。

 米側では、在日米海軍のジェームズ・ケリー司令官が九月七日、MDシステムを効果的に運用するには日本側が集団的自衛権を行使する必要があるとの認識を示すなど、憲法解釈の変更に期待が高まっている。

メ モ

 集団的自衛権とは、自国と関係のある外国に対する武力攻撃を、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利。国際連合憲章でも「加盟国が武力攻撃を受けた場合、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、個別的または集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と認めている。

 1981年に閣議決定した政府見解では「わが国が国際法上、集団的自衛権を有していることは主権国家である以上、当然」としながらも、平和主義を規定した憲法9条によって、集団的自衛権の行使は「自衛のための必要最小限度の範囲を超えるもので、憲法上許されない」と結論付けた。