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| 最近、世論の動きがおかしい。イラク人質事件、北朝鮮の拉致被害者家族問題など、大きな出来事があると、世論が極端に一つの方向に振れてしまう。そして振り返った時には、何事もなかったかのように風化している。「熱病」のような世論。この病理はどこから来るのか。七月十一日投開票の参院選を前に、そんな「時代の空気」を追った。 |
(4回連載、報道本部の山下幸紀、小野孝子が担当しました) |
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| <1> 激しさ増す攻撃性 不満の矛先 政治にも? |
デパートにちょっとした異変が起きているという。
「ここ数年、強気で横暴な態度で苦情を言ってくる客が増えている」。札幌市内の大手デパートの担当者の間でこんな話題が出ることがある。
「店員がぶつかったせいで、携帯電話を落として傷がついた。どうしてくれる」「すき焼き肉が硬かった。ただの返品ではなく、誠意を見せろ」
暴力団のようなゆすり、たかりのたぐいではない。ごく普通の人たちだ。ある担当者はあきらめ顔で言う。「店の方から言い返せないのを分かっている。だから、あんな態度に出るんでしょう」
安全な地帯から攻撃する。生な感情を言い放ち、責任は持たない。昨年夏、あるインターネットの掲示板サイトが閉鎖した顛末(てんまつ)にも、似たところがある。
「新着! 札幌掲示板」。多い時のアクセス数は一日に一千件、書き込みは百件ほど。ネット上の情報交換だけでなく、参加者が顔を合わせる懇親会も開いていた。
札幌市内に住む管理人の松尾多聞さん(43)は「若者から定年を迎えた方まで、年齢や職業に関係なく、純粋にインターネットを楽しむ人たちの集まりでした」と話す。
変化が表れたのは、サイト開設から二年たった二○○二年春ごろ。掲示板への「荒らし」が始まった。文字絵でオウム真理教(アーレフに改称)の麻原彰晃教祖を描き、「ここに参加しているやつらは皆殺しだ」などの書き込みが、執拗(しつよう)に繰り返された。
「このサイトうざい」「つぶしてしまえ」。日本一の巨大掲示板サイト「2ちゃんねる」にも、札幌掲示板に対するこんな書き込みがあった。その直後から、二十四時間ひっきりなしの攻撃アクセスを受けた。
松尾さん個人を否定する中傷や、いかがわしい業者の書き込みも絶えなかった。パソコンに詳しい松尾さんは、その都度対処してきたが、とうとう閉鎖を決めた。「いいかげん、わずらわしくなってしまったんですよ」
松尾さんがホームページ開設を手伝った女性の中には、同じように中傷を受け、食事がのどを通らなくなったり、入院したりした人もいる。
匿名の世界に隠れた悪質ないたずら。書く側は軽い気持ちだが、書かれた側は人生が傾くほどの衝撃を受ける。
「欲求不満のはけ口ですね。相手を困らせることで留飲を下げ、暗い内向きの自己実現をしている」。松尾さんはこう分析する。
極端な意見を言うことに躊躇(ちゅうちょ)しない雰囲気が広がり始めている。札幌市内の公立高校の四十代の男性教師も「生徒たちが攻撃的になっている」と話す。
例えば、イラク戦争について、リポートを書かせる。
「イラクみたいな遠い国の貧しい連中なんか、どうなったっていい」「きれいごとを言っても仕方ない。戦争の是非を話し合う必要なんてあるのか」。こんな文章を、ごく普通の生徒が平気な顔で書いてくるという。
相手を思いやる想像力の欠如。人間関係が希薄になる中、内面にたまったストレスが、出口を求めて暴れている。
時に熱病現象を生むこうしたやり場のない空気を、政治は受け止めきれるのか。選挙で噴出することはあるのだろうか。
参院選道選挙区の民主党現職の選対幹部は言った。「最近の世論調査は支持動向のぶれが大きい。負ける時は票があっというまに逃げていく。その世論の流れがまだ見えない」
見えない流れを探るため、「加藤の乱」の主役、加藤紘一・元自民党幹事長に会いに行った。 |