参院選は11日、投票日を迎える。争点となっている年金制度改革や自衛隊のイラク多国籍軍参加、地方分権のあり方など、何を判断材料に1票を託せばいいのか。それぞれの専門家に聞いた。  (4回連載しました) 
争点を読む 投票を前に
<1> 年金・社会保障    
     
    破たんの不安 まず解消を
本間照光 青山学院大教授
主要5政党の公約・マニフェスト「年金・社会保障」
<自民>
●3党合意に基づき年金一元化を含む社会保障制度全般の見直しを2007年3月の結論をめどに検討
●厚生年金保険料は18.3%に固定。給付はモデル世帯の受給開始時で現役世代の平均手取り収入の50%以上を確保
●基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる
●社会保険庁のあり方を見直す
●2005年に介護保険制度の改正法案を提出
●介護予防など10年間の健康フロンティア戦略を展開する
<民主>
●年金改革法を廃止
●国民年金、厚生年金、共済年金をすべて一元化
●所得比例年金と年金目的消費税などを財源にする最低保障年金からなる制度を創設
●社会保険庁を廃止し、国税庁と統合した歳入庁を新設
●予算の見直しで基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる
●医療費の本人負担を2割に戻すとともに、医療制度改革を推進
<公明>
●年金、介護、医療の社会保障制度の一体的改革を進める
●2007年度をめどに消費税を含む税制の抜本改正で安定財源の確保を図る
●市町村などとの連携強化で社会保険庁を抜本的に組織改革
●基礎年金の国庫負担割合2分の1への引き上げは2009年度までに実現
●介護予防・生活習慣病対策の推進へ今後10年間で健康寿命を2年程度伸ばす
●次世代育成プランを策定し総合的な子育て支援を充実
<共産>
●全額を国の負担でまかなう月額5万円の最低保障年金制度を実現し、さらに支払った保険料に応じて一定額を上乗せ
●年金財源は大型公共事業や軍事費を削減するとともに、大企業や高額所得者からの応分の負担で確保
●年金や社会保障財源を口実にした消費税の増税に反対
●年金積立金を計画的に取り崩し、給付に充てる
●介護給付金の国庫負担割合を4分の1から2分の1に引き上げる
<社民>
●年金法を停止し、支給開始年齢先送り、給付切り下げ、保険料引き上げを当面しない
●所得比例年金と月額8万円を保証する全額税方式の基礎的暮らし年金を創設
●保険料は所得に応じ雇用労働者(パート、派遣など含む)、公務員、自営業者を同率にする
●高額所得者の保険料、給付に上限を設定
●サラリーマンの医療費自己負担を2割に戻し、高齢者医療の自己負担限度額を見直す
●介護基盤の早急な整備で地域間格差を解消
(表)モデル世帯の厚生年金給付水準の推移
 年金改革については、各党とも自らの主張を抜本改革だと訴えるが、問題点を抱える現行の制度を、安心できる制度にどのように変えていくか、いずれも具体的に踏み込んだ案の提示になっていない。

 消費税論議ともからみ焦点になっている保険料負担と年金財源の問題についても、各党とも明確な説明をしていない。消費税導入の是非など、耳障りなことは言いにくいためか、あいまいなままだ。

 現行の年金制度で最大の問題点は、事実上の最低保障制度がないことだ。基礎年金部分を社会の全構成員に保障する枠組みづくりこそが急務だ。人間らしく暮らせるように保障するのが、年金に限らず社会保障政策の重要課題であり、ヨーロッパでは年金の最低保障制度は常識だ。

 日本では、この欠陥を放置しているため、政府と国民の信頼感が醸成されず、現行制度の下で「基礎年金」と位置づけられている国民年金に、未納問題や無年金者問題が出てくる。今の国民年金は未納者、滞納者などを合わせると、自営業者ら一号被保険者となるべき人たちの二分の一が制度から脱落している。穴だらけの国民年金の上に、厚生年金や共済年金を組み合わせ、制度全体では継ぎはぎだらけで、やっていけなくなっている。

 「今の年金制度は将来、破たんするのではないか」という、国民の間で高まる不安を解消することが政府や政党に求められる。年金制度を理想の形に近づけるには、最低保障年金制度の創設に付け加える形で、個人の保険料負担などに応じて給付をする二階建ての部分をつくるべきだろう。

 年金は百年にも及ぶ遠い約束で、制度を支えるには国民と政府の間に深い信頼関係が必要だ。先の通常国会のように、政府が十分な説明を怠ったり、採決にあたり与党が強権的な手法を用いて制度を決めていくことがあってはならない。

 与党が主張するように、年金一元化問題を含めた社会保障全体の論議をして、ここで見直しを図ることは大切だ。参院選後の抜本協議が、国民合意の形成を図れる場になるように、有権者も引き続き論議を監視していかなければいけない。
 ほんま・てるみつ 北海学園大教授などを経て現職。専門は社会保障論、社会政策。著書に「保険の社会学」など。56歳。