2004/10/09(土)
勝ち犬の起源
藻岩山三十三観音・十一番
=札幌市
 一九四九年(昭和二十四年)の“勝ち犬”、つまり専業主婦の平日の平均家事時間は十時間十六分。そりゃそうだ。子供は三人四人、冷蔵庫なし洗濯機なし掃除機なしガスなし紙オムツなしの時代ですもん。当時のかあさんにとって、酒井順子さんの「負け犬の遠吠(ぼ)え」(講談社)に登場する勝ち犬も負け犬も、おそらく「なんのこっちゃ」。

 ワタシはヒマ、と告白する専業主婦に出会ったことがない。じつに不思議。専業主婦歴三十年の連れ合いに「昼間なにしてんの」と聞くと「あれで、これで、それで…」。よくわからないけど、再答弁を求めてキレられたらあぶない。とにかく忙しいみたい。

 およそ百年前のわが国では、六割をこえる既婚女性が家事以外の労働に従事していた。まあ、結婚退職も出産退職も近ごろの言葉で、そもそも「家庭にはいる」という発想がなかった時代の話。多くは農漁業などの嫁さん、自営業のおかみさん。家事専念というわけにはいかない。夫婦はそれぞれに忙しく、子育ても自然と“協働”になったはず。

 転換点は第一次大戦後の好況期。無傷の日本では産業の近代化が急速に進み、サラリマーンを大量生産した。やがて夫は企業戦士、妻は家を守り子育てを担当する専業主婦。要するにソトとウチの分業で、勝ち犬の起源もそのあたり。ただ、勝ち犬と呼ばれるほどの余裕はまだまだ。

 第二次大戦後も主婦は増え続け、団塊の世代の女性が家庭にはいって専業主婦の割合がピークを迎える。いろいろ問題はあっても、ソトとウチの分業システムがそれなりに機能したからにちがいない。専業主婦は目覚めていない、と批判する「進歩」的な人もいるらしいが、頭でっかちのよけいなお世話。

 時代は変わる。専業主婦の歴史もその程度。分業システムがこれからも有効とはかぎらない。勝ちも負けも一時の話題。それより、家族のありようはいったいどうなっていくんでしょうね。

(渡部正行=精神科医・札幌 )