5  対策のほころび

 欧州に広がる感染  厳しい規制すり抜け



検証BSE 題字
 
 「もう感染牛が出ないとは言い切れません」。英南部ハンプシャー州の牧場主オリバー・ハウさん(46)はそう言って顔をしかめた。

 ハウさんの牧場を牛海綿状脳症(BSE)が襲ったのは1987年のこと。瞬く間に感染牛の数は膨れ上がり、これまでに200頭近くを処分。今は下火にはなっているものの、2001年もまた1頭、感染牛が確認された。

 2000年には欧州大陸にまで本格的に感染の手が広がったBSE。震源地とされる英国では1986年に最初の感染例が確認されて以降、これまでに全土で約18万頭が処分され、市場価格に見合った国の補償も行われている。

 感染源とされる肉骨粉などへの規制を年々強化し、今では肉骨粉はおろか魚肉を含めて動物タンパク加工品の家畜飼料への使用を禁じている。BSEの病原体を含む恐れのある脳や脊髄(せきずい)など危険部位の取り扱いにも、厳しい規制が敷かれた。

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牛を見つめるハウさん。いまなおBSEの心配は尽きない=英ハンプシャー州(浜田稔撮影)
 しかし、いまだに撲滅できていない。ピークの1992年に3万7000頭余りに上った感染牛の数はその後漸減したが、2001年もまだ約1100頭。肉骨粉の規制前ならともかく、規制後に生まれた牛にさえ感染例が見つかるのは一体なぜなのか。

 母子感染、禁止飼料の不正使用、遺伝…。諸説が飛び交うものの、英環境・食料・農村地域省のBSE担当者は「実はまだよく分かっていない」という。

 そんな中で2002年2月、英獣医研究局の専門家が指摘した「輸送上の問題」が関係者の注目を集めた。「(安全なはずの穀物など)輸入飼料原料を船で運ぶ途中、船倉内などで肉骨粉と接触した疑いがある」と。

 英国では1996年に肉骨粉の輸出を禁止したが、欧州連合(EU)諸国はそれ以降も輸出を続け、イタリアではつい2年前まで牛の危険部位を肉骨粉に加工していた。

 EU域外では今も大量の肉骨粉が国際取引されている。特定の国や地域が規制を設けても、その網をすり抜け、世界中を行き交う飼料原料がどこかで感染源と接触する機会はこれまでも、そしてこれからもありうる。

 思わぬ落とし穴は、食肉の加工・流通段階にもある。8月下旬、フランスとドイツからの輸入冷凍牛肉の中に相次いで危険部位とされる脊髄(せきずい)が見つかった。BSEはヒトへの感染の恐れがあるとして、EUは危険部位の除去と安全な廃棄を義務付けているが、完全には守られていない実態があらわになった。

 また、9月2日に公表された欧州委員会の報告書は「2002年5月に担当官が英国内の羊のと畜場を検査したところ、作業員が脊髄を取り除いた手でそのまま食肉に触れていた」と指摘している。

 BSE対策のほころびをどう補うか。欧州はなお課題を抱えたままだ。

(おわり)

 この連載は、報道本部の楢木野寛、内本智子、東京政経部の鵺野隆治、西条恵一郎、国際部の浜田稔(ロンドン)が担当しました。




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