
「あなた見られてます」
トップへ戻る |
| 2005/07/21(木) 朝刊 |
| <上> 新・治安維持法 処罰の対象拡大の恐れ |
実際に犯罪を行っていなくても、犯罪について話し合っただけで摘発対象となる共謀罪。「超監視社会を招く」とも批判される法律をなぜ導入しようとするのか。それは、何をもたらすのか。郵政民営化法案をめぐる騒ぎの陰で、ひっそりと国会審議が始まった共謀罪の問題点を考える。
◇
「このような法案の審議に立ち会うとは夢にも思わなかった。共謀罪は現代の治安維持法と断じて間違いない」
共謀罪新設を盛り込んだ関連法案の本格審議が始まった今月十二日の衆院法務委員会。弁護士出身の民主党・辻恵議員(近畿比例区)は質疑の冒頭、憤りを隠そうともせず切り出した。
辻議員が引き合いに出した治安維持法は、社会運動や思想を取り締まり、処罰するために制定された戦前の法律。一九二五年の公布当初は共産党を摘発対象にしたが、三年後、「結社の目的遂行のためにする行為」の規定が加えられ、性格は一変した。
法の適用対象が一挙に広がり、労働組合の活動や文化運動、治安維持法の被告に対する弁護士の弁護活動まで、「共産党の目的のための行為」とみなされ、処罰されるようになった。
故三浦綾子さんが小説「銃口」のモデルとした北海道綴方(つづりかた)教育連盟事件(四○−四一年)では、進歩的な作文教育の推進が「目的遂行罪」に当たるとして、連盟の教師らが逮捕された。
2人で「団体」
内心の自由を侵害する恐れ、そして乱用の余地を残す規定のあいまいさ−の二点から、共謀罪と治安維持法は類似している。共謀罪は、テロ防止対策を定めた国際組織犯罪防止条約の国内法化という位置付けなのに、対象を「国際的な犯罪集団」に限定していない。二人以上の「団体」の共謀であれば処罰対象となってしまう。
政府側は衆院法務委の答弁で「対象は暴力団などによる国際的な組織犯罪。一般の団体への適用はない」と繰り返すが、辻議員の疑念は消えない。「一般に適用しないのなら、団体の要件を厳密に規定するべきだ」と。
組合活動委縮
日弁連や自由法曹団などは、共謀罪によって危惧(きぐ)される事例を想定している。
高層マンションの建設に反対する住民組織が建設資材の搬入阻止を計画したところ、威力業務妨害の共謀容疑で逮捕される−。そんなことも起こりかねない。
自由法曹団事務局の大崎潤一弁護士(東京)はこう言う。「反戦ビラを投函(とうかん)した人間に住居侵入罪を適用したように、すでに法律の恣意(しい)的運用はまかり通っている。法案が成立したら、捜査当局に大きな武器を与えることになる」と。
道労連執行委員を務める吉根清三さん(札幌)には忘れられない記憶がある。タクシー会社の労組委員長だった九三年、支店長を丸一日監禁したとして逮捕されたことだ。
夏季一時金の支給を求める組合に対し、会社は賃金カットを逆提案して団体交渉を拒否。組合が実力行使で団交に持ち込んだ時に、「事件」は起きた。公判で「団交は組合の正当な権利。支店長は二度も途中退室しており監禁ではない」と反論したが、札幌地裁で執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。
吉根さんは訴える。「不誠実な会社には『押しかけ団交』も戦術となるのに、共謀罪ができたら団交を決める会議自体が予防的に(事前に)摘発されかねない。話し合いが原則の組合活動を委縮させてしまう」 |
| ◇共謀罪◇ |
| 現行法では犯罪が実際に行われた場合にのみ共謀者を罪に問えるが、共謀罪は複数の人間による犯罪の「合意」自体を処罰対象とする。適用罪種は重大犯罪に限らず、強要や公選法、消費税法など600以上。合意が摘発対象となるため、内心の自由の侵害が懸念される。 |
|