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第3部 外からの視線
<1> 避花粉ツアー
<2> ジンギスカンブーム
<3> 北海道物産展
<4> コールセンター
<5> 台湾人観光客

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2006/03/25(土) 朝刊
<2> ジンギスカンブーム
「臭くて硬い」覆す

 しゃれたブティックやカフェが点在する東京・中目黒。北海道の郷土料理ジンギスカンの全国的なブームは、若者に人気のこの街で火がついた。

 その象徴となった店が「くろひつじ」だ。二○○四年七月のオープン以来、カップルや女性客で連日満席が続く。落ち着いたカフェ風の店内で、しちりんの上に置かれた鉄鍋をつつくスタイルは、居酒屋風が多い道内の専門店とは全くイメージが異なっている。

 経営するのは、札幌で中古車販売会社を営む石谷和久(43)。「東京では、うまいジンギスカンがなかなか食べられない」という知人の一言が開店のきっかけだった。

 飲食業は素人の石谷だが、「東京の人たちが持つ『羊肉は臭くて硬い』という先入観を払拭(ふっしょく)すれば成功する」と考えた。札幌の名店を食べ歩き、道内の業者と掛け合って、ニュージーランド産マトン(一歳−二歳未満)を仕入れた。臭みはほとんどなく、焼くと上品な香ばしさが漂う上質な肉だ。

 中目黒は、信頼するコンサルタントが「今までのジンギスカンのイメージを覆す店にした方がいい」と言って紹介してくれた出店地だった。さすがに石谷も「こんな高級住宅街の真ん中で大丈夫か」と不安になったというが、結果的にこれが当たる。おしゃれな店舗と肉のおいしさが若者の心をつかみ、今や月商千五百万円の繁盛ぶりだ。

 この成功をきっかけに、首都圏の専門店が急増。建設業者などの異業種参入も相次いでおり、都内のジンギスカン愛好団体「東京ジンギス倶楽部」によると、その数は現在三百店に上る。


 くろひつじの成功の要因は、大衆料理の「上質化」にあった。

 「臭い、安っぽいなどマイナスの印象を持っていたのに、食べたら意外にうまいし、店の雰囲気もいい。いわば『振れ幅』が大きかった。外食産業はこの驚きが大事なんです」。首都圏で約三十店の新規出店を支援してきた、サッポロビール東京南支店課長代理の新出浩士(34)は、人気の背景をそう読み解く。

 それだけではない。テレビや雑誌では、羊肉に多く含まれる「カルニチン」のダイエット効果が話題になった。

 「意外におしゃれでおいしい」「食べても太らない」−。ジンギスカンには、現代の若者受けする要素がたくさん含まれていたのだ。

 実は、過熱するブームには影の仕掛け人がいた。ニュージーランドの食肉商社・アンズコフーズ日本法人である。現社長の金城誠(46)が就任した直後の○二年秋以降、首都圏への羊肉普及に力を入れてきた。

 同社によると、日本国民の平均羊肉消費量は年間一人当たり四百グラム。北海道はその三倍は消費しているとされる。ちなみに国内で消費される羊肉の99%はニュージーランドとオーストラリアからの輸入だ。

 「北海道でこれほど人気があるのに、首都圏の人が食べない理由はない。羊肉の普及にはジンギスカンをPRするのが最も有効と考えた」(金城)

 くろひつじ開店直後の○四年八月には早くも中目黒を「ジンギスカンファンの注目スポット」としてマスコミ向けに紹介。羊肉の調理方法を説明するために有力スーパーをくまなく訪問するなど、羊肉に対する“偏見”を取り除く地道な努力を続けてきた。

 北海道民にとっては以前と変わらぬ「野趣あふれる大衆料理」であるジンギスカンだが、首都圏の人たちが抱くイメージは、この一年余で一変してしまった。しかし、その“落差”は、北海道にとって決してマイナスではないだろう。

 三月中旬、職場仲間とくろひつじに来店した二十歳代の女性客はこう言った。「ジンギスカンってこんなにおいしかったの? 次は絶対、北海道で食べたい!」

 ジンギスカンの上質イメージへの転換が、間違いなく北海道のイメージアップにもつながっているようだ。(文中敬称略)



キーワードは上質化

「こだわり消費」に商機

高品質のバッグや小物が並ぶソメスサドルの店舗(札幌市中央区)。おしゃれ好きでその名を知らない人は少ない
 内閣府が十三日に発表した二○○五年十−十二月期の国内総生産(GDP)の改定値は、年率換算で5・4%増という高い成長率を記録した。首都圏などで個人消費が大きな伸びを示し、中でも高額商品の売れ行きが好調だ。景気回復で、こだわりのあるモノやサービスにお金を惜しまない人が増えているのだ。

 「上質路線」で成功した首都圏のジンギスカン専門店も、こうした時代の空気を的確にとらえていたといえる。しかもそこには、イメージとしての高級感だけではなく、北海道の高い加工技術という裏付けがあった。

 食肉商社・丸大大金畜産(札幌)の大金頌明常務が「本州で羊肉加工の技術を持っている業者は、ほとんどいない」と証言するように、本場・北海道で加工された上質の肉を提供したからこそ、支持を集めたのである。

 資金力の乏しい北海道の製造業者にとって、国内に現れ始めた「こだわり消費」は追い風だ。

 馬具やバッグなど革製品製造のソメスサドル(歌志内)は、吟味された素材と丁寧な手作業が評価され、伊勢丹新宿本店や三越日本橋本店、セレクトショップのトゥモローランドなどの有力店に商品を供給し、本物志向の消費者から高い人気を得ている。

 百万円前後の最高級家具で富裕層の需要を開拓している家具製造のカンディハウス(旭川)、三百円前後の高級カップめんの分野で相次ぎヒット商品を生み出している十勝新津製麺(めん)(十勝管内池田町)など、規模は小さくても、質にこだわることで全国的な知名度を高めている道内企業は少なくない。

 もともと素材に恵まれた北海道だけに、素材の良さを引き出す技術にたけた加工業者は多い。その上、北海道の異国的なイメージと「上質路線」は相性も良い。

 道内の製造業者が、生産量と価格で国内大手に対抗していくのは厳しいが、高品質と希少性を追求する「上質化」を戦略に据えることで、商機はぐっと広がってくる。