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2006/03/27(月) 朝刊
<3> 北海道物産展
本物へのあこがれ
それは鹿児島市民にとって、年に一度の「祭り」なのかもしれない。
同市中心部に店を構える百貨店「山形屋(やまかたや)」。この創業二百五十五年の老舗が、毎年十一月に開く「北海道の物産と観光展」は、百貨店催事の域を超えた熱気をはらむ。
二十日間の期間中、カニ、コンブ、豆、菓子類など新鮮な道産品が、六階催事場に所狭しと並ぶ。それを目当てに昨年は市の人口に匹敵する六十万人超が訪れ、売上高は六億二千六百万円と全国の北海道物産展でトップを記録した。
開幕前には、地元テレビ局が一時間の特別番組を放送し、期間中は、地元新聞が連日のように関連記事を掲載する。その盛り上がりは、札幌でいえば「さっぽろ雪まつり」や「YOSAKOIソーラン祭り」などに近い。
鹿児島市民の“熱”の源は、「北海道の食」に対する期待と信頼だ。
「いつも一年分のコンブを買う」と語るのは団体役員の竹之上巌(42)。主婦の大山あんぬ(57)も「北海道と聞くだけでわくわくする。一度では買いきれないから、何度も来てしまう」と言い、三日に一回のペースで訪れる。
市民だけでなく、奄美大島から船で十時間以上かけ、泊まりがけで買いに来る客までいるのだ。
山形屋の北海道物産展が始まったのは一九六三年。初代担当者の有島孝秋(76)によれば、かつての薩摩藩が北前船によるコンブ交易の重要拠点だった歴史から「鹿児島人は、本物の北海道の食へのあこがれが、とりわけ強い」という。
現担当者で食品仕入部長の日高博昭(47)は毎年三回は来道。昨年はレンタカーで延べ二千キロを走り、二百の業者から五千点の商品を買い付けた。「やはり自分の目で確かめないと。北海道ブランドへの期待を裏切るわけにはいかないですから」。日高の役回りはさしずめ現代版の「北前船」のようである。
山形屋では、物産展の準備に奔走する日高らを追ったテレビの特別番組を録画し、社員教育にも使う。「山形屋で仕事をすることの喜びや意義が集約されているからです」(幹部)。南国・鹿児島の人たちが「北海道」に寄せる思いは半端なものではない。
◇
百貨店業界から「集客を計算できる催事」と評価されるのが北海道物産展。二○○五年度は道主催のものだけで全国三十五店舗で開催され、総売上高は五十三億円。二○○○年のそごうの破たんによる会場数の減少の影響で総額は減少したが、一店当たりでは増加基調が続く。
これが他県になると「五年間で売上高が二割減り、開催場所の確保も厳しくなりつつある」(福岡物産振興会)。百貨店業界も余裕がなくなり、集客や売り上げを確実に見込める催事でなければ開きたがらない。こんな「催事不況」の中での北海道の「独り勝ち」は、その圧倒的な商品力によるところが大きい。
北海道の食について「素材はいいが、加工はいまひとつ」と否定的にみる向きも少なくないが、阪急百貨店(大阪市)の名物バイヤー、薬師寺雅文(52)に言わせれば「そもそも素材の力で勝負できるのは北海道だけ」。買い付けのため年十回ほど来道する薬師寺は「行くたびに宝が見つかる」と魅力を語る。
富良野の洋菓子店「フラノデリス」社長の藤田美知男(41)は、そんな北海道の魅力に気付き、五年前に東京から移住してきた男だ。
この一月に十三日間にわたって東武百貨店池袋店で開かれた北海道物産展。フラノデリスが出品した牛乳瓶入り「ふらの牛乳プリン」の売り上げは十万本にも達した。「東京で同じ商品を作ってもこうは売れません」。今や藤田の下にはネットによる通販の注文が一日三千五百本分舞い込む。
鹿児島の人たちがそうであるように「北海道」に対するあこがれや信頼感は、道民が想像する以上のものだ。道外出身の藤田がそうしたように、北海道の地場企業が、北海道の「ブランド力」を自覚して企業戦略にまで高めることができれば、チャンスは無限に広がっていくはずだ。(文中敬称略)
キーワードはブランド管理
産業と行政 連携不可欠
「北海道風味」とはどんな味なのか? 北海道ブランドは、道民の想像を超えたパワーを持っている=台北市内の百貨店
食における「北海道ブランド」の影響力は今や海を超えて広がっている。最近、台湾や中国の百貨店の食品売り場では「北海道風味」という奇妙な商品名の付いた加工食品が目に付く。大半が地元製で、道産原料を使ったものを見かけることはほとんどない。日本製バッグに「ルイ・ヴィトン風」と命名するようなもので、消費者の購買意欲をそそる力が「北海道」という名前にはあるようなのだ。
当の北海道の人間はまだ無頓着だが、ブランド価値を守るには、「ブランドを管理する」という意識が欠かせない。
例えば、時計産業が集積するスイスは「SWISS MADE」(スイス製)と時計に表記できる条件を法令で定めている。「ムーブメント(駆動体)がスイス製である」「ムーブメントの時計への組み込みが国内で行われている」「最終検査が国内で行われている」などで、これを満たすために多くの欧米メーカーがスイスに工場を移した。「SWISS MADE」と文字盤に入るだけで、消費者の信頼度が全く異なるからだ。
北海道も「食」にかかわる産業と行政が一丸となってブランド価値を高め、守るため、一定の基準を設け、それと合致するものに「北海道産」の表記を認める発想があってもよいだろう。
実は道も「道産食品認証制度」などを定めてはいる。ただ、一昨年に米国産原料を混ぜたそば粉が「道産100%」と表示されて売られた問題などを踏まえ「主原料が道産品であること」を条件としたため、現在の認証品目は十一種のみ。例えば、石屋製菓のチョコレート菓子「白い恋人」などは認証の対象にならない。福岡県で「めんたいこ」が県産品に認定されないようなものだ。
このように「ブランド管理」の前提となる基準作りは簡単ではないが、道産品の「高品質」「安心・安全」のイメージを守り、なおかつ地場産業の発展につながる戦略的なブランド管理を期待したい。それが機能すれば、低価格の輸入品への有力な対抗策にもなる。
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