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2006/03/29(水) 朝刊
<4> コールセンター
有能な若年層魅力
「ライブドア株を持っているのですが、もう売ることはできないのでしょうか…」
東京証券取引所がライブドアのマザーズ上場廃止を決めた翌日の十四日朝、札幌市中央区にある松井証券のコールセンターには、ライブドア株に関連し四十件に上る問い合わせが相次いだ。
「上場廃止が決まっても一カ月間は市場で売買できますので…」。顧客からの質問に答えるオペレーターたちを見つめながら、センター長の今井崇人(31)は「この三カ月間は試練の連続でした」と振り返った。
松井証券は顧客四十七万五千口座(二月末現在)を持つインターネット専業証券大手。札幌のセンターは昨年七月、東京のコールセンター機能の大半を移転する形で設けられた。地元採用のオペレーター五十人でスタートしたが、個人の株取引の急増で、現在は百二十人にまで増えた。
順調だったセンターが試練を迎えたのは昨年十二月。ジェイコム株の大量誤発注に始まり、ライブドアショック、東証のシステム停止…と、立て続けに証券市場を揺るがす問題が起きたのだ。
「ジェイコム株誤発注の時は、お客さんの方が情報が早かった」(オペレーターの小松久美)ほどで、マニュアル通りの対応は通用しない。しかも店舗を持たない松井証券にとって、札幌は唯一の顧客対応拠点であり、企業イメージを左右しかねない。「困難に直面して人材の力の重要さをあらためて実感した」と今井は言う。
札幌のセンター開設を担当した取締役顧客サポート部長の佐藤歩(40)は、その決め手は人材だったと語る。「他の都市と比べ、札幌の若者は押し出しは強くないが、実直でしんも強い。顧客の大事なお金を扱うサービスにとっては表面の明るさよりもそうした気質の方が大事なんです」
◇
北海道内のコールセンターの数は五十一社五十四拠点。誘致で先行してきた沖縄県の三十七社四十八拠点を抜き、全国トップの集積を誇る。
約三十の県や市が支援制度を設けて誘致競争を繰り広げる中、道や札幌市の支援内容が決して目立っているわけではない。例えば、投資額の補助は島根県が最大十億円なのに対し、道は一億円にすぎない。このことはコールセンターに企業が求めるものが「経費削減」だけではなくなっていることを示している。
「コールセンター」と一口に言っても、その主流は注文受け付けのような単純なものから、情報技術(IT)関連の技術支援や金融・保険業の営業活動など専門知識を必要とするものへ移行している。センターに蓄積した顧客情報を活用し、利益につなげていこうとの発想が主流となる中で、企業が求めるのは若くて有能な人材である。
札幌市は、労働力人口(十五歳以上)の46%を40歳未満が占める(二○○○年国勢調査)という若年層の多さ、近郊を含めて大学・短大が三十六校に上るという教育機関の充実を強みとして挙げるが、「一つの職場の定着率が高く、チームワークも良い」といった数字に表れにくい特長を指摘する関係者も多い。
コールセンターの立地にふさわしい都市はどこか−。全国の主要都市を調査し、札幌で起業したのが、愛知県出身の小金沢健司(45)。そのアイティ・コミュニケーションズは設立六年にして年商二十九億円まで成長した。「豊富な人材に加え、本州のようなしがらみが少ないため、地元大学や、サッポロバレーのIT企業との共同作業が実現しやすいのも魅力」。同社が北大やビー・ユー・ジーなどと共同で専用の電話交換機を開発したのはその成果だ。
コールセンターという業種に対しては「雇用の受け皿」というイメージが強いが、小金沢は「高度化した情報産業に発展していく可能性は十分ある」とみる。コールセンターを置く企業のノウハウが地元に蓄積し、IT企業や大学と結びついて一大情報拠点になる。
実はこうした過程で一九九○年代に急速な経済成長を遂げたのがアイルランドだ。環境がよく似た北海道の一つの手本になるだろう。(文中敬称略)
キーワードは人材
見直される「残留志向」
若い人材の不足が、アイシン精機の目を北海道に向けさせた=愛知県西尾市の同社工場
大手自動車部品メーカーアイシン精機(愛知県刈谷市)の苫小牧進出と、道内のコールセンターの活況は根底でつながっている。
道外での人材確保がいかに困難になっているかという現実である。二○○○年の国勢調査で主要都市の二十歳代の人口を見てみると、札幌の二十八万人に対し、名古屋は三十二万人。企業集積の差を考えれば、いかに札幌が若い人材に恵まれているかが分かる。
札幌、旭川を含む全国三十三カ所にコールセンターを持つ業界最大手、ベルシステム24(東京)の浜口聡子常務は「北海道は当社が望む人材を確保しやすいのは確か」と認める。
逆に言えば、なぜ北海道にこれだけ若い人材がとどまっているのかである。「いま東京では三十歳代の営業社員は完全な売り手市場。しかし、札幌でそうした職を紹介しても行きたがる人はまずいない。多少給料が安くても北海道に残りたいという人がほとんど」というのは人材派遣大手、キャリアバンク(札幌)の中川均常務。職に恵まれているわけでもないのに、北海道に残りたがる「残留志向」の強さが若者の数の多さにつながっているとの見方だ。
同社に登録する派遣社員五百人を対象にしたアンケートでは、英会話や資格取得のための勉強をした経験を持つ人は九割いたが、その目的に「キャリアアップ」を挙げたのは三割強にすぎなかった。
このような「北海道から出たがらない」「おおらかで競争を好まない」といった気質は、これまで道産子の欠点と言われてきた。しかし、日本社会が米国のような競争社会や実力主義に傾斜し、転職が当たり前になると、北海道の若い人材が「動かない」ことがかえって貴重なものと受け止められるようになった。社員の定着率が悪いと、教育のための経費がかかる上、技術の蓄積も進まないからだ。
行き過ぎた競争社会が北海道の人材の再評価につながっているとするなら、大いなる好機の到来といえるだろう。
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