北海道新聞
連載は道警報償費疑惑取材班が担当しました。
<上>黙殺 自浄作用持たぬ組織
2004/01/28(水) 朝刊
 二〇〇〇年六月十七日。梅雨入り後ながら、新潟市は薄日が差していた。東京在住のフリージャーナリスト今井亮一氏(49)は、その日を鮮明に覚えている。

「刷新」遠い会議

 前日に新潟入りし、朝一番で信濃川べりを歩いて新潟県民会館へ。「警察刷新会議新潟公聴会」の看板が掛かる小ホールに一番乗りした。会場は間もなく市民ら約百六十人で埋まる。今井氏はここで「裏金問題」を持ち出すつもりだった。

 当時は、全国各地で警察の不祥事が続出。同会議は警察改革の方向を議論するため、その三カ月前に国家公安委員会が設置した組織だ。

 公聴会では監察制度や情報公開に関する議論がたんたんと続く。一般公募で選ばれた八人の意見発表が終わり、今井氏は会場から発言を求めた。

 「(警察内部の)裏金問題に触れずして警察刷新はあり得ません。この会議が『外部監査を』という国民の声を封じて(続出する不祥事を)適当なところで幕引きする装置にならないよう祈っています」

  今井氏は、自身の発言の後に「元警察官」も手を挙げ、「裏金はあった」と語ったことを記憶している。同会議の樋口広太郎委員長(アサヒビール名誉会長)は「どんな世界でも二重帳簿や裏金は絶対いかん」と応じたが、翌七月に同会議がまとめた「緊急提言」には結局、不正経理問題は盛り込まれなかった。

 今井氏は警視庁赤坂署の「カラ日当疑惑」訴訟の原告であり、警察の裏金づくりの実態を法廷で暴き出した経験を持つ。

 赤坂署が虚偽の「参考人呼出簿」を作成し、約四十三万円の旅費・日当を架空支出していた−。この疑惑を表面化させた今井氏の友人らが一九九六年に呼出簿を基に調査したところ、参考人とされた計四十四人中、三十七人は存在せず、実在の七人も日当や旅費を受領していないことが判明した。

告発者捜し優先

 警視庁で十八年間会計職員を務め、自らも手を染めた裏金づくりの実態を暴露した大内顕氏(45)は「警察は(組織的)不祥事を絶対に認めない。調査もせず、告発の犯人捜しを優先する。周到な隠ぺい、あいまいな幕引きは警察の伝統」と言い切る。しかも大内氏によれば、裏金づくりは道警も含め全国の警察で、ほぼ一律の手法で行われているという。「一つの警察が認めれば裏金ネットワークが瓦解する。そんなことはできません」

 大内氏が予測した通りのことは、赤坂署の訴訟でも起きた。この訴訟で被告の元署長らは九七年一月、突然、流用されたとする四十三万円を東京都に返還。その後、被告側は原告側の主張を認める「認諾」手続きを取り、裁判を終結させた。

 原告の今井氏は「勝ったと思った」という。確かに法的には完全勝訴だったが、同氏の知らぬところで警視庁はこんなコメントを発表していた。

 「裁判を続けると協力者に迷惑をかけるので、終結させた。違法行為を認めたわけではない」

 これとは別に、東京都の会社員二人が「警視庁に情報提供した覚えはないのに謝礼の領収書に無断で名前を使われた」と訴えていた裁判では、最高裁が今月二十日、東京都・警視庁側の上告を退け、法的には「警察による領収書偽造」が確定した。しかし、警視庁はここでも「上告が認められなかったことは残念」と、木で鼻をくくったようなコメントを出した。

 結局、警察には自浄作用が皆無ではないか。組織の不正体質を改めないと誇りと使命感を持って働く一線の警察官が報われない−。警察の不正経理にいち早く切り込んだ一人である今井氏は、当時も今もそう考えている。
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