警察「裏金」 取材班の中間報告



道警裏金問題
 弟子屈署(釧路管内弟子屈町)の裏金をめぐる住民監査請求で二十八日、全国初となる警察への「返還勧告」が出された。元同署次長の斎藤邦雄氏が証言した「署長へのヤミ手当」などは認定できなかったものの、監査委員が警察の不正経理を断罪した影響は小さくない。「道警の内部調査は幕引きへの道ではないか」といった声も出る中、道監査委員は今後、知事要求に基づく特別監査を本格化させる。

<1> 幕引き 外の目拒み組織防衛 最小限認め決着急ぐ
2004/04/29(木) 朝刊
 二十八日午後二時すぎ。道警本部の九階に、二十二枚の用紙が届けられた。

 持参したのは道監査委員事務局職員、届け先は道公安委員会。一枚目には「違法または不当な公金の支出と認められる」「北海道が被った損害を補填(ほてん)するよう勧告する」。警察経理をめぐり、全国で初めて「返還勧告」が出された瞬間だった。

 この日、札幌は冷たい雨だった。代表監査委員の徳永光孝氏は午前九時すぎ、札幌市中央区の公宅を出て、いつも通り歩いて仕事場のある道庁別館に向かう。

 右手にチェック柄の傘、左手に「監査結果」の入ったかばん。約二十分の道すがら「(監査結果は)それなりの重みがある」と自らの意志を確認するように語った。

変わらぬ答え

50人近い報道陣に囲まれ、監査結果を発表する徳永光孝代表監査委員(手前右から2人目)ら監査委員=28日午後3時20分、札幌市中央区の道庁別館
 その二週間前の十六日夕刻。

 徳永氏ら監査委員四人は道庁別館の会議室で、中塚幸男総務部長、島根悟警務部長ら道警幹部と向き合っていた。

 弟子屈署の裏金疑惑をめぐる住民監査請求に伴う、道警幹部の事情聴取。事実解明が生煮えに終わった旭川中央署の疑惑と違い、弟子屈署は元次長の実名証言や「裏帳簿」までそろっている。しかも、監査委員はその時点で「領収書偽造は弟子屈署だけではできないので、ほかの署にも依頼していた」という現職署員の証言も得ていた。

 ところが、居並ぶ道警幹部は監査委員の指摘を認めず、表情も変えない。「道警の主張は何も変わらない」。ある委員はこう感じ、別の委員は「警察は、ある意味すごい組織だな。押しても引いても幹部の答えは一緒だ」と舌を巻いた。おれたちの組織に部外者は手を突っ込むな−。そんな組織防衛の姿勢を監査委員は感じ取っていた。

「新たな不正、個人のせい」

「しっぽ切り」

 弟子屈署の監査結果が出る直前。ある道警幹部は「今回の監査結果は織り込み済み。早期決着への一過程でしかない」と繰り返し語っていた。

 証拠があるもの、逃げ切れないものは不正を認め、それ以外は決して認めない。裏金は「不適正な経理」と言い換え、私的流用などの核心はぼかし、外部からのチェックは捜査に支障が出るとして絶対に拒む。「それが警察のやり方」(道警幹部)なのだ、と。

 こうした姿勢は裏金づくりを認めた静岡県警と福岡県警にも共通する。内部調査を拒んでいた宮城県警が二十日に一転して調査を決めたのも、元警視が地元オンブズマンに裏金の実態を証言した後のことだった。

 四月上旬。福岡県警の現職警部補は県監査委員に対し、実名で申立書を提出した。同県警銃器対策課で一九九八、九九の両年度に裏金づくりに手を染めたと元警部が証言し、県警挙げて内部調査が始まっていた。

 「上層部が(裏金を)懐に入れた証拠は一切残さず、名前が出た者で正直に話をした者のみを処分してトカゲのしっぽ切りで終結させるのです」「私が銃器対策課に在任中も、お金は一度も受け取っていないし、協力者に渡したことは一度もありません」「現場で頑張っている警察官は、悪い慣習を引きずる上層幹部の犠牲者なのです」

 A4判の用紙五枚。横書きの約六千字は、現場警察官の声に出せない叫びでもある。

 道警でも現在、専従班による全部署を対象にした「内部調査」が続く。そして、現場警察官には、道警本部を発信地として「新たな不正が出たら個人のせいになる」「旭川中央や弟子屈など公式に認めた不正は刑事事件として立件するらしい」といった話が、さざ波のように伝わっている。


 裏金問題発覚から五カ月。北海道から全国に波及した「警察裏金」の底流と闇を追う。